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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)5530号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鍛冶良道の上告趣意は、後記のとおりである。

上告趣意第一点について。

刑法第二五三条は人の地位、身分によって差別を設けたのではない、如何なる身分、地位にある人でも、自己の業務に関して横領をした時はそれ以外の横領より重く罰せられるのである。又業務の種類によって差別を設けて居るわけでもない。如何なる業務でも同じなのである。即ち「業務に関する」という行為の属性についての区別であって、人についての区別ではない。何等の業務をも持たない人は、右法条の罪を犯す機会がないわけだけれども、それは偶々その機会を持たないというだけのことであって、その為第二五三条が業務を持つ者と持たないものとの間に差別を設け後者を前者より優遇する趣旨でないことはいう迄もない。同条は只前記行為の属性を目標として加重要件を定めただけであって、人によって差別を設けたものではない。即ち差別の目標は行為の属性にあるので、人の地位、身分にあるのではない。例えば刑務所に拘禁されて居る者は、事実上殆んど刑法所定の各種の罪を犯す機会を持たないけれども、その為め刑法が拘禁中の者と然らざる者との間に差別を設け被拘禁者を優遇したものとは何人も考えないであろう。総ての刑罰法条は只行為を標準として処罰要件を定めたものであって、国民中に事実上所定の罪を犯す機会を持ち得ない者が有るからといって、そのため法が右の如き者と然らざる者との間に差別を設けたものといえないことはいう迄もあるまい。これと同様に刑法の中には行為の属性によって刑の加重要件を定めた条文は多々ある。例えば第一八六条、第二一一条等の如きである。第二〇五条もその一つに過ぎないのである(なお昭和二五年(あ)第二九二号同二五年一〇月一一日大法廷判決参照)。所論の違憲論は、同条は人による差別を設けたものであるとの誤解に出でたもので、違憲論としては前提を欠くものである。そして、反社会性が顕著で、犯情が重いとされる場合にその刑を加重しても憲法一四条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決の趣旨に徴し明らかである(昭和二五年(れ)第一二一九号同二六年八月一日大法廷判決参照)。

同第二点について。

論旨は、量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点及び第四点について。

論旨は、いずれも原審において主張されず従って原審の判断を経ていない判例違反の主張であるから上告の理由とならない。のみならず所論は第一審判決の認定しない事実を根拠とする立論であって採用できない。なお、本件には刑訴四一一条を適用すべき事由も認められない。

よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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